知的所産は本来積み重ねによってその厚みを増していくものである。だが、実際には経済原理の支配からは逃れることができない。紙の本は、出版社という企業の利潤計画に基づいて一定の数が事前に印刷され、それがすべて消費者に買われていくまで在庫として会社の空間と経済を圧迫する。

　そのため、一定期間で金銭に換えられる見通しの高い本、つまり「売れる本」ばかりが出版されてきたし、またある期間成功を収めた本であっても、それが飽きられることによって再び印刷される機会を得られなくなり、やがて市場から、そして我々の知的世界から退場することを余儀なくされてきた。 電子書籍は、そのようにせっかくの知的所産が経済原理に押しつぶされて灰燼と化すこれまでの現状を、根本から変える可能性がある。

　その理由は主に二つ。第一に在庫が不要である。そのため、事前に印刷しておく必要がなく、不良在庫を抱える危険がない。さらに、実際に顧客に販売された分だけ印税を払う形になるため、不透明な売掛が発生せず、その分著者の印税割合を高められることである。 しかも、この分野はまだ未開拓であり、既得権者が存在しない。だからインターネットにつながるすべての者たちが等しくその恩恵にあずかる可能性を秘めている。

　私が今ここに新たな電子出版社を興す最大の理由がここにある。知的作成物を公表し、それを手に入れる権利を真に一般市民の手に取り戻す、いや史上初めて市民がその権利を獲得することが、この事業の希求する未来の姿である。 この事業を始めるに当たって私に長があるとすれば、教育資源という知的所産を身近に持つことである。

　当面は私自身の著作物や私と親交のある優れた方々の著作を電子書籍として発行していく予定である。勿論、出版の世界には無限の可能性がある。参考書に止まらず、意外な著者の意外な才能を開花させるお手伝いをさせていただく所存である。

2012年1月吉日

株式会社ideal 代表取締役 富田一彦